街の中に入ると中心に高い塔が見えた。
塔の麓まで続いていそうな幅の広い道には様々な店が連なっている。
いくつかの店を見て回った後、以前と変わらぬ街の有様に少し安堵しながら私は宿を探した。
親切な住人から宿の場所を教えてもらい、目的地に移動しようとした時、
大きなぬいぐるみを抱えた少女が視界の端を通り過ぎていった。
私は咄嗟に声を掛けようとしたが、少女はすぐに暗い裏路地の中に消えてしまった。
余所者である自分が追いかけても迷うだけだと思い、諦めて紹介された宿を目指す事にした。
滞在期間中、どうしてもあの少女の事が気掛かりでそれとなく探してみたが、
結局は出会えないまま滞在予定期限となり、私は街をあとにした。
いくらか進んだ所で、まだあの街の塔は見えるのだろうかと後ろを振り返ったが、
鬱蒼とした木々のせいか、全く見える事は無かった。